MOA美術館 リニューアルプロジェクト
これからの時代にふさわしい美術館を目指す
想いを建物という形にする役目を担うのは、設計者や施工者だけではありません。これからの時代にふさわしい美術館を追求したいという発注者の強い気持ちを、様々な条件下でどのようにして具現化すべきか。そこには多くのトライがありました。
このリニューアルプロジェクトにはどのような想いが隠されているのか。MOA美術館 内田館長と山下PMCの日比生にプロジェクトを振り返ってもらいました。

施設紹介:MOA美術館
1982 年開館。相模灘を見渡す高台に建ち、国宝3 点、重要文化財66 点を含む約3500 点を所蔵。美術館のメインロビーからは海に浮かぶ初島や伊豆大島が一望できる。2016年3月から2017 年1月にかけて展示空間等の刷新と設備の更新のために改修工事を行う。 ロビーエリア、展示スペース・ショップ・カフェの基本設計(意匠)は「新素材研究所」(現代美術作家・杉本博司氏、建築家・榊田倫之氏が主宰)。リニューアル事業全体のプロジェクトマネジメントを山下PMC が行った。

話し手のご紹介
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内田篤呉
MOA美術館
館長
1952年生まれ。慶応義塾大学卒業。2007年に「光悦光琳蒔絵の特質とその系譜」で博士(美学)。MOA美術館では、学芸部長、副館長を経て2014年館長。九州大学客員教授、文部科学省文化審議会専門委員。漆工史学会副会長。 -
日比生 慶
山下ピー・エム・コンサルタンツ
QCDS部部長
1972年生まれ。99年京都大学大学院工学研究科修了。山下設計で設計業務を経験し、2005年に山下PMC入社。QCDS部部長として幅広い業務を担当。一級建築士、CCMJ(認定コンストラクション・マネジャー)、CFMJ(認定ファシリティマネジャー)。
どうしても手がけたかった美術館のプロジェクト
大きなプロジェクトには第三者的な目線が必要です
- 内田
- プロジェクトを遂行したいと思う一方で、その事業が適正であるかどうか、第三者的な視点による、プロジェクトマネジメントを採り入れようという考えが常々ありました。そこで数社に声をかけ、一番プレゼンに熱意があった山下PMCにお願いすることを決めたのです。
- 日比生
- お声がけをいただいた時、当社では美術館を手がけた実績がありませんでした。建築に関わる者として、いつかは美術館を手がけてみたいと考えていました。どうしてもやりたいとの気持ちが伝わったのかも知れませんね。
いざプロジェクトをスタートしてみると、文化庁の厳格な基準が存在したりして、勉強の毎日でした。
- 内田
- 苦労をおかけしたと思います。日本的な空間にしようという理由から、ロビーエリア、展示スペース等の設計は「新素材研究所」に依頼しました。その主宰者の一人である杉本博司さんは、豊かな発想をお持ちで様々な提案がありました。しかし、一方でそれらの提案を全て受け入れるにはコストの問題が残る。ではどこまでトライすべきか、なかなか私たちでは判断できません。その点を日比生さんに参謀の目線で見てもらいたいと考えていました。

海抜260mにある1、2階吹き抜けのロビー。海側は全面ガラス張りで外光が内部を明るく照らす
- 日比生
- コストを抑えながら、デザイナーのやりたいこと、美術館サイドが考えることのバランスを整え、よりよいものを創る方法を提案することが我々に課せられた役目でした。
たとえばメインロビーは白漆喰を使って、これまでのインド砂岩による内覧とは印象を大きく変えたいと提案がありました。確かに魅力的な提案でした。
ただ、実現するには大きなコストもかかりました。デザイナーの意向を尊重しながら、予算の範囲内で別のアプローチができないかと折衝しました。

森林に囲まれた周囲の環境との調和を考慮し、シンプルなデザインの外観。車寄せの雨掛りの改善と駐車場の不陸補修を実施した。
- 内田
- 私たちでは分からないこと、気づかない点が多いですね。例えば、施工者から、こういう空調機を入れたいと提案された場合、我々は黙って受け入れてしまいます。しかし、それはクルマに例えるなら高級輸入車のような存在で、実務的な用途を考えれば軽自動車で充分、というケースもありました。このような物の見方や判断は、我々にはなかなかできません。
山下PMCには、ゼネコンと同じように、建築設計者だけでなく、設備や電気などさまざまなプロがいて、見積りを査定したり、提案に対して、適切な対応ができました。もちろん、設計者にも納得のいくものでしたから、話はとてもスムーズでした。

落ち着きのあるエントランスのデザインは現代美術作家・杉本博司氏、建築家・榊田倫之が主宰する新素材研究所が手がけた。
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